新春座談会 青年経営者と語る 鶴岡市、これからの100年  本市の今日の経済発展は、農林漁業や製造業、卸・小売業など様々な産業に支えられています。また、時代の変遷の中で、社会や消費者のニーズにも応えながら、雇用を生み出し、サービスを提供してきました。  こうした中、令和6年は、旧鶴岡市が全国で100番目に市制施行して100年を迎えるなどしたことから、これまでの歩みを未来につなげ、持続可能なまちづくりを進めていくため、「鶴岡100年プライド」として次代を担う人づくりに関連する事業を行ってきました。  その1つとして、志高く生き生きと挑戦し、本市のこれからの100年をけん引する青年経営者の取り組みを市ホームページで紹介しています。今回は紹介した方の中から4人の方と市長が語り合いました。 鶴岡100年プライド 本間 光太郎(ほんま・こうたろう) さん ㈱本長代表取締役社長。115年の歴史を持つ漬物製造会社の4代目 佐久間 麻都香(さくま・まどか) さん 1Blue㈱取締役。宮城県仙台市出身。山大農学部進学をきっかけに鶴岡に定住 齋藤 寛子(さいとう・ひろこ) さん 四季菜ファーム代表。宮崎県出身。24歳で鶴岡に移住。農業を始めて6年目 佐藤 友介(さとう・ゆうすけ) さん ㈱佐藤工務代表取締役副社長。平成24年に林業部門を立ち上げる 皆川 治 鶴岡市長 【司会】鶴岡市商工観光部長 阿部 知弘 一同 明けましておめでとうございます。 市長 令和6年は、旧鶴岡市の市制施行からちょうど100周年であり、また、羽越本線全線開通100周年、ユネスコ食文化創造都市認定10周年と、節目が重なった年でした。  そのような節目に次代を担う人づくりを進めるため、青年経営者である皆様の取り組みを市のホームページでご紹介させていただきました。  市の施策で重点分野は様々ありますが、今後のまちづくりに当たり、特に重要なのは産業の強化だと考えています。鶴岡市が活力あるまちになるためには、産業が地域に根付き発展していくことが大きな鍵になります。これからの鶴岡の産業を担う皆さんと語り合えることを楽しみにしていました。 仕事で大切にしていること 司会 それでは始めに、次代を担う青年経営者である皆様から、日頃経営する上で心掛けていることをお話しいただきます。 本間 創業115年の会社を継いで10年目になります。先代がやったことをそのまま受け継いで売り上げが伸びれば一番楽なのですが、そのようなことは絶対にありません。ですので、改めて自分が創業する気持ちで、新しい分野に挑戦し続けることを心掛けています。 佐久間 6年前にオランダ人のデイビッドと一緒に立ち上げたばかりの歴史の浅い会社で、経営者としての自覚もあまりないまま走り出した感じがあります。だからこそ無理をしないで、私たちにしかできないことを優先し、できるだけ長く続けられるように、というのを常に考えています。 佐藤 佐藤工務は令和6年で創業70周年。先代と同じことをするのではなく、時代に合わせた経営はもちろん、いろいろな社業を営んでいく必要があると思っています。そういった中でも私が何よりも大事にしているのは、会社の仲間の幸せを追求していくということで、職場の環境改善を図ることを心掛けています。 齋藤 私は非農家の出身で新規参入という形で農業を始めましたが、新規参入の場合、続けるのが難しいことが多く、断念して辞めているという話をたくさん聞きます。自分たちもいろいろ大変ですが、成功することで新規参入の人たちに対し、こういうやり方がある、新規参入でもできるんだ、という可能性を示したいという気持ちが強くありますね。 市長 ビジネスというのは、時代でニーズが本当に変わっていきますよね。今鶴岡でも、電子デバイスなどが主力の産業になってきています。そのような時代に合った産業が起きている中でも、食や環境など先人たちが残してくれたものも大切にしなければなりません。  また、今日参加の皆さんは、引き継ぐ難しさ、生まれ育った場所ではない所で新たに立ち上げる難しさなどもあったと思います。今日の出会いもそうですし、鶴岡庄内でのいろいろな出会いやつながりを生かして、ビジネスの発展につなげていってほしいです。 新たに始めた取り組み 司会 市では、「がんばる中小企業応援事業」など、事業者が新しいことにチャレンジする取り組みを応援しています。そこで、皆様が今、新たに取り組み始めたことや、一番力を入れていることについてお聞かせください。 本間 幹は変えずに葉っぱは変えないと駄目だということをいつも言っています。漬物を作り続けて115年たちますが、幹の部分の作り方は変わっていない。ただ葉っぱの部分は時代に応じて変えていかないと取り残されていくと思っています。  漬物業界で今一番注目されているキーワードが「減塩」です。昔と比べて今の漬物は塩分が低くなっているんですね。お客様の健康に対する思いが確実に昔と変わってきているので、時代に合わせて今までなかったものに積極的に挑戦しています。 市長 今はより一層健康志向が強まっているということなんですね。減塩以外にも漬物界でのトレンドは何かあるんですか。 本間 「発酵」です。特に女性には発酵食品が体に良いことが知られています。本長にも塩こうじを使った商品があります。 佐久間 私たちが干し柿を原料にして作っている「エナジーバー」の賞味期限はだいたい7か月ぐらいです。その賞味期限を更に伸ばしたいと思っていて、その理由が2つあります。  1つは海外への輸出を進めたいからです。国によって賞味期限の条件があり、長いほど条件を満たすことができます。2つ目は災害時の備蓄として。豪雨災害のとき、これを持って行ったら栄養士さんにすごく褒めていただいたんです。賞味期限が長いほどロスも少なくなるので、鮮度を長く保ちながらおいしく食べられるように実験をしています。 市長 今まで海外展開はしているのですか。 佐久間 9月に香港の1社とやりとりが始まりました。また、市の取り組みであるロンドン市場開拓へのPR事業にも参加しています。 佐藤 私が林業に取り組み始めたきっかけは、何か環境に配慮した企業活動ができないかと思ったことです。木を切ることは環境破壊のイメージを持たれがちですが、木は適切に管理されないとお互いの成長を阻害します。間引きなどをすることで、木の成長だけでなく、二酸化炭素の吸収率も良くなります。専門的な知識を持って管理すれば、山が復活し、環境保全にもつながるんです。本当に始めて良かったと思います。  また、最近は官民一体となったプロジェクトにも積極的に参画しています。これは今後のまちづくりに活(い)かしていけるものと思っています。 市長 建設業と林業という組み合わせはそんなに多くはないですよね。 佐藤 そうですね。異業種を一緒にやる会社は多いですが、うまくいかないこともあります。でも、当社は道を作るのが得意だったこともあり、切った木を運ぶ作業道を作るのも難しくなかった。うまくマッチングできたのは良かったと思います。 齋藤 四季菜ファームとして長ネギの栽培は6年目となりますが、だんだん技術が追いついてきて、昨年の豪雨でも長ネギはほとんど被害がありませんでした。でもトマトが大ダメージを受けたんですね。農業はどうしても天候に左右されやすい職業です。打ち勝つことはできませんが、何とか順応するためにも、ほかの農家さんとの情報交換は欠かせません。減収は避けられなくても、ある程度のところで抑えられればということで、試行錯誤しながら、天候に左右されず続けられるようにしていきたいと考えています。 市長 トマトや長ネギは飲食店などに出荷しているんですか。 齋藤 トマトはカゴメと契約して2年目です。長ネギは飲食店に卸しているのですが、取引先がコロナ禍で大分減ってしまいました。今また少しずつ増えている段階です。 市長 やはり創意工夫を発揮していくということがすごく重要ですよね。皆さん今までなかった新しい視点で、この地域で取り組まれていなかった分野を切り開いていらっしゃるので、大変心強く感じました。  市でも安心して暮らせる環境を整えながら、皆さんが創意工夫を発揮できるような商工観光施策に取り組んでいきます。 鶴岡の魅力そして課題 司会 続いて、鶴岡市で事業されていて感じる、鶴岡の強みや課題についてお聞かせください。 本間 本長は、鶴岡で受け継がれてきた在来野菜を中心に使っていることで、お客様にご支持いただいているところがあります。ですので、鶴岡市でなければ商売は成り立っていなかったと思っています。  私は仕事で東京や大阪に行く機会がありますが、とにかく外国人の方であふれかえっています。鶴岡もインバウンドを頑張っていると思いますが、残念ながらまだ少ないというのが感想です。外国人も知る人ぞ知るみたいな所に行きたいというのがあるらしいので、多くの外国人に来てもらえるように、在来野菜など豊富な食材をもっとアピールしていくことが必要だと思います。 佐藤 私は様々な団体に所属していることもあり、外国人の方々とお話する機会があるんですね。本間社長もおっしゃっていたように東京とか関西にはインバウンドが多いですが、東北も気になっているという方がたくさんいます。庄内には繰り返し来たくなるような魅力があふれていると思いますので、居心地の良い住環境を整えたら、より多くの外国人の方が喜んで来たくなるのではと考えています。 佐久間 私は鶴岡の特産品の1つであり「庄内」という名前が入った庄内柿を商品に使わせていただいていますが、鶴岡は素材がたくさんあるのが強みだと思います。また、出羽三山の〝生まれかわり〟の文化があるように、古い伝統的な食材(庄内柿)を新しい形(エナジーバー)に生まれ変わらせるというコンセプトで商品の開発をしています。  世界にエナジーバーを輸出するのはもちろん、これを食べた人が鶴岡の食材だけでなく、その文化にも気付いて「鶴岡に行ってみたい」と思ってもらえたらいいなという思いが私にはあります。 市長 すばらしいですね。麻都香さんは山大農学部に来られてから、どの時点で鶴岡で暮らしていこうと考えたのですか。 佐久間 大学卒業後にアフリカに行ったときに、日本の暮らしや食べ物のことを聞かれた際、いつも鶴岡のことを思い浮かべながら説明をしていたんですね。自分の中では「日本=鶴岡」みたいな感じで。多分そのときには鶴岡が戻る場所というように考え始めていました。 齋藤 鶴岡は近い人同士のつながりがすごく強くて、仲良くなった人はとても親切にしてくれます。でもそれは本当に内々で、外には発信していかない傾向があるように感じます。例えば観光で来た人などに対して遠慮してしまうとか。それを仲間内でやっているみたいにできれば、もっとにぎやかなまちになるんじゃないかなと思います。  出身地の宮崎では逆に知らない人とハイタッチしたり、踊ったりなど、フランクに接する人が多いんですね。独特の県民性かもしれませんが。 市長 これからは先人たちが大切に守ってきた食文化や歴史などがいよいよ本格的にインバウンドとして受け入れられていく、そういう時代になってきたと思います。皆さんのそれぞれの事業分野も含め、やはり観光というのは、市の総力だと思うんです。市のまちづくりの魅力が人を呼ぶ原動力となるんです。きらびやかな施設があるからとかそういうことではなくて、そこにしかない、すばらしい食、景観、人、そういうものを皆さん自身がもう体現されていると思いますので、もっと協力してしっかり頑張っていきたいですね。 思い描く未来 司会 最後に、皆様方が今後チャレンジをしてみたいことについてお聞かせください。 本間 先ほど話した幹を変えずに葉っぱを変えるということで、葉っぱの部分を時代に合ったものに変えたいというところがあるので、これまで蓄積した技術を最大限生かして、新しい漬物をどんどん作っていきたいなと常々思っているところです。  また輸出にもチャレンジしてみたいです。これまで何回かやってみたのですが、残念ながら1回の企画で終わってしまったので、できれば継続的に取り組んでいきたいですね。 佐久間 柿の栽培は大変で柿農家は年々減っています。私たちの次の夢は、もっとたくさんの干し柿を仕入れるために、いろいろな農家さんにそのための柿を作ってもらえる仕組みを作ることです。この仕組みによって原材料の確保にもなるし、農家さんの持続にもつながるんじゃないかなと思うんです。それと合わせて干し柿を作れる技術もあったらいいなと思います。 佐藤 会社の仲間の幸せを追求する手段の一つとして、賃金を上げるなどして給料面からも魅力的な職場環境を築いていきたいと思っています。若い人たちが職場を選ぶとき、給料がどのぐらいなのかをまず考えると思うんです。若い人に選んでもらうために賃金を上げながら、働きがいのある会社を目指していきたいです。これからも様々な魅力を追加しながら、ちょっと面白い変化をつけたいなっていう考えも持っています。 齋藤 高齢化によって周りの農地が大変なことになるんだろうなと年々感じているので、農業では規模拡大をしていくことになると思っています。さすがに全部は請け負えませんが、少しでも荒れた場所がなくなるようにしたいと考えています。  また、安定的に別の収入を得ながら農業を続けていけるよう、「半農半X」ができたらと思っています。やはり天候が安定しないこともあって気持ち的に不安な部分もあります。義母がおにぎり屋をやっているので、それを引き継ぐことも考えています。 司会 皆様、貴重なお話ありがとうございました。それでは最後に市長から振り返りをお願いします。 市長 今日は皆さんがどんな気持ちでどんなことに取り組んでおられるのか知ることができました。またお話を聞いて、それぞれのビジネスが一緒になってつながっていくことができるのではないかと思いました。つながり、連携に向けて、市役所としてもお手伝いしていかなければと改めて感じたところです。  私は市役所など行政の役割は民間の皆さん、特に今日お集まりの青年 経営者のような方々が動きやすい、また事業展開しやすいように環境を整備し、後押ししていくことだと考えています。具体的には、事業者の皆さんを応援していくためにも、市役所でも人材確保に一生懸命取り組んでいるところです。そして、行政も民間も協力して、性別や障がいの有無に関わらず、本当に働きやすい職場を追い求めていく必要があります。  今後もよろしくお願いします。皆様、本日はありがとうございました。 一同 ありがとうございました。 時代に合わせて新しいものを作り続ける ─ 本間 光太郎 出羽三山の文化が込められた商品をきっかけに鶴岡に来てほしい ─ 佐久間 麻都香 若い人が農業を続けられるよう、自分たちが道しるべに ─ 齋藤 寛子 会社の仲間の幸せを第一に考えて職場環境を整える ─ 佐藤 友介 経営者の皆さんが創意工夫を発揮できるまちにする ─ 皆川 治 市も様々な形で事業者を応援! 鶴岡市がんばる中小企業応援事業補助金        〈令和6年度は受け付けを終了しています〉 中小企業等が行う新分野展開・生産性向上・新製品開発等を支援します。 ■対象   次の①②のいずれかに該当する  ①市内に本社または主たる事業所がある中小企業者  ②①に準ずると市長が認めたもの ■補助率・上限  対象経費の2分の1以内(上限100万円)  ※設備投資等を伴わない場合は上限30万円。 ■補助金メニュー  ▽新分野展開等支援事業   他業種進出や事業転換など  ▽生産設備等導入事業      高効率化や生産能力向上に資する設備の導入など  ▽新製品開発支援事業   既存技術を活用した新製品開発など オーダーメイド型独立就農者支援事業 新規就農者の経営発展に向けた取り組みを支援します。 ■対象   認定新規就農者で、人・農地プランの中心経営体である方 ■補助対象経費  ・国や県の補助事業の対象とならない小規模な農業用機械等の取得に要する費用  ・農業用機械免許等の取得に要する費用 ■補助率・上限  対象経費の2分の1以内(上限50万円) 未来をけん引する青年経営者を紹介しています  市では、未来を担う若者を応援するため、老舗事業所・新規創業・農林水産業等の分野の青年経営者を、ホームページで毎月紹介しています。  令和6年6月に始まり、7年3月までの計10回です。ぜひご覧ください。 こちらからご覧いただけます