農業を始めたことが  誰かの背中を押せたら 人(ひと)の情景(じょうけい) scene 15 菅井奈緒 Nao Sugai 温海地域の在来作物、越沢三角そばを継承したいという思いから、農業を学び始めた菅井奈緒さん。長年勤めてきたウェディングプランナーを辞め、現在は鶴岡市立農業経営者育成学校「SEADS(シーズ)」の研修生です。  「きっかけは、令和4年の越沢三角そばまつりでした。実家が越沢地区なので手伝いに行ったら、コロナ禍でも越沢の人たちが明るくて楽しそうで。『これからもそばを守っていこう』と頑張る地域の人々の姿が心に残ったんです」。  その頃、ウェディングプランナーを続けていくことに迷いが生じていた奈緒さん。越沢のそば屋から、「そばの打ち手が足りないから担い手にならないか」と誘われていたこともあって、そばの継承に少しずつ気持ちが動き始めます。  「こんなにおいしいそばを、打ち手がいないことが理由で途絶えさせたくなかったんです。最初は打ち手になろうと思いましたが、そばが作られる原点を知っていれば、お客さんに自信を持って勧めることができると思い、そばを栽培する農家になろうと決意しました」。  当初は越沢のそば農家から教わることも考えていましたが、農業について幅広い知識を持った方が良いと周囲に言われ、シーズに入校。農場や受入農家での実習、座学など、2年間のカリキュラムの中で、農業の知識を一から身に付けています。  「それぞれの野菜に適した日照時間や土づくりに必要な肥料など、学んでいくうちに農業に対する見方が変わっていくのが楽しかったですね。それに、シーズには私と同じく農業を学び始めた人たちがいるので、分からないことがあったら気兼ねなく相談できたことも心強かったです」。  奈緒さんが大切にしていることは、「楽しいと思ってやること」。大変だとは口にしたくないと話します。  「何十年も農家をしている方が、『来年はもっとこうしでなやの』と楽しそうに話す姿を見て、私もこんなふうに農業をやりたいと感じました。大変なのはみんな同じで、私が楽しく過ごしていれば周りの人に良い影響を与えられると思うんです」。  3月にシーズを修了した後は、いよいよ越沢三角そばの栽培に取り組みます。目指すのは、いろいろな人とつながっていく農業です。  「ほかの農家さんとそれぞれの強みを生かして一緒に農業を盛り上げたり、私が作ったそばをきっかけに、越沢にたくさんの人が来てくれたりしたらうれしいですね。そして、農家になった自分を見た人が『私も何か始めたい』と思ってくれる。そんなロールモデルになりたいです」。  4月から、奈緒さんは農家として芽吹いていきます。 菅井奈緒(すがい・なお) さん(41) 温海地域越沢地区出身。鶴岡中央高校、東京のブライダル専門学校を経て、東京の結婚式場で3年間勤務。Uターンした後は、㈱エル・サンでウェディングプランナーとして15年間活躍。令和5年4月にシーズに入校し、今年3月に修了予定。越沢で母が営む商店を継承することも考えていて、生そばや温海かぶの漬物を販売したいと話す。好きな野菜はナス。2児の母。 ▲山形ふるさとCМ大賞の鶴岡市作品で主演。当初は出演を断る予定だったが、「チャンスが来たら挑戦する」と決めていたことを思い出し、出演を決めた。 CМはこちらから ▲4月からは、80aの畑を借りてそばを作りながら、温海かぶの栽培も行う予定。 ▲研修生同士で芋煮や餅つき、キャンプをした。「横のつながりがあって1人じゃないと実感した」と思い返す。