古いものや人との出会いで未来につながる場所に 人の情景(ひとのじょうけい) scene17 富樫 あい子 Aiko Togashi 山王通り商店街でカフェ兼レンタルスペース「古今」を営んでいる富樫あい子さん。8年前に酒田市から移住し、店を構えています。 「以前は金融機関に勤めていましたが、自分には向いておらず、苦労しました。何かを作る仕事がしたい、自分のお店を持ちたいと思っていた中、新庄市まで通うほど好きだったパン屋が酒田市に移転すると聞き、思い切って会社を退職して働かせてもらうことにしたんです」。 パン屋で修業を積み、子育てしながら自分のお店の開店に向けて物件を探していたあい子さんの元に、今は誰も使っていない古い町家があるとの情報が飛び込んできました。 「元々しょう油屋さんで、お店スペースと、長い土間、広い和室がある物件でした。町家って、生活しながら商売をする建築様式だそうで、私が求めている暮らしに合っているなと感じました。壊されるのがもったいない、残したいという思いもあって購入することを決め、リノベーションして店舗兼住宅としました。実験がてら、夫が育てただだちゃ豆を玄関先で売ったりもしましたね」。 2019年にカフェとして開業したものの、まだ子供が小さかったため、仕事に向かえる時間が限られていました。そんな中、コーヒー屋や花屋を営む知人が店舗内に出店してくれたといいます。子供が成長するにつれカフェやランチ営業を始め、さらにコミュニティスペースや居場所作りの場にするなど、お店の役割を徐々に増やしていきました。 あい子さんに次の転機が訪れたのは2024年。鶴岡市内で新たな事業を起こす「鶴岡イノベーションプログラム」で、空き家の片付けを行う事業者と知り合ったことをきっかけに、処分される古道具を扱うことになったのです。古物商の資格を取得し、お店での販売も始めました。 「捨てられるはずのものも、求める人とつながれば価値が見つかる。この家だってそうです。これは、どんなことにも言えるんじゃないかと考えるようになりました」。 古道具の中でも、傷やゆがみがある難あり≠フ物に引かれるというあい子さん。「古道具を手に取るお客さんを見ていると、『この人なら生かしてくれる!』と感じる瞬間が あるんです。うれしくなりますね」と、やりがいを語ってくれました。 歴史ある土地で、古いものと今を生きる人たちが出会う。それが、あい子さんの思う古今の在り方です。「商店街という開かれた場所で、人や物が点と点で結ばれて、まちの未 来につながればいいなと思っています」。古今では、今日も新たな出会いが生まれています。 長い土間の奥に設けられた古道具コーナー。取材中にも、古い物と出会うお客さんの姿が見られた。 商店街に開かれた、ガラス張りのお店。店先でハーブ苗販売などのイベントが行われることもある。 和室での子供向けダンスワークショップの様子。打合せやライブなど、多様な使われ方をしている。 富樫 あい子 さん(37) 酒田市出身。酒田西高校卒業。金融機関での窓口勤務を経て、酒田市内のパン屋で接客や菓子作りを学ぶ。鶴岡で農業を営む夫と結婚し移住。2019年に山王町に「古今」を開業。お店の空間が大好きで、プライベートでもついお店のことをしてしまうため、3人の子供たちとの遊びの時間は集中して楽しむよう心掛けているそう。 インスタグラムで情報発信中!