御殿まり≠ェこの先も鶴岡を彩ることを願って 人の情景(ひとのじょうけい) scene23 市川由喜 Ichikawa Yuki 鶴岡の伝統工芸品「御殿まり」。絹糸などで作られた色鮮やかな品で、庄内藩の奥女中たちが作ったのが始まりとされています。その御殿まりを継承している方の1人が市川由喜さん。昭和57年、母に人手が足りないと相談されたことを機に、本格的に制作を開始しました。 「御殿まりは、小さい頃から身近なものでした。祖母の上野富美は、明治時代に廃れてしまった制作技法を再現した人です。祖母が縫う姿をずっと見ていましたし、私も手仕事が好きだったので、この道に進むことに迷いはありませんでした」。 祖母や母が制作した御殿まりが並ぶ仕事部屋で、40年間黙々と縫い続けてきた由喜さん。菊や桜、幾何学模様など従来のデザインを継承しつつ、自身の好きな色で美しいまりを生み出してきました。 「もみ殻を包んだ紙を丸めて糸を巻いていき、その上にひたすら刺しゅうを施していきます。根気のいる作業で、直径12pの4号玉を製作するのに2週間はかかります。それでも、作りたい模様が次々に思い浮かぶので楽しく続けてこられました」。 由喜さんが制作した御殿まりは市内各所で販売され、売り場を華やかにしてきました。また、沖縄県の米軍基地に出店する方に誘われたことを機に、嘉手納飛行場で年以上にわたって実演販売をしてきました。 「御殿まりは、在日米軍の方やその家族にとても喜んでもらえました。クリスマスツリーの飾りとして愛用する方もいてうれしかったです」。 しかし、以前と比べ御殿まりを求める人は少なくなったと肩を落とします。また、制作販売だけでは生活できないこともあり、後継者は見つかっていません。由喜さんは、伝統の灯を絶やすまいと、多くの人に御殿まりに親しんでもらうための活動を続けています。 「今は学生から70代までの約20人の生徒に指導していますし、体験教室も開いています。『作ってみて楽しかった』と言われたときは、とてもうれしく、やりがいにつながりますね。このまりは鶴岡の大事な伝統工芸品ですから、地元の若い方たちに親しんでもらいたいんですよ」。 昨年から、由喜さんは市内の高校でも教えています。一緒に講師を務めるのは由喜さんが教えた生徒たち。技法は少しずつ受け継がれています。「伝統の継承は、まりを縫うことと似ていて根気強く地道に続けていくことが大切なんです。次の世代に伝える活動を、これからも積み重ねていきたいですね」。 この先も御殿まりが鶴岡を彩ることを願いながら、由喜さんは今日も針を進めています。 市川由喜(いちかわ・ゆき)さん(76) 鶴岡市出身。鶴岡三中、鶴岡北高校、横浜女子短期大学を卒業後、鶴岡幼稚園で教諭を務める。昭和57年に退職し、御殿まりの製作を開始。平成24年から、上野御殿まり教室主宰。「元気なうちは続けたいですね」とほほえむ。趣味は中国ドラマと韓国ドラマの鑑賞。海外旅行も好きで、これまでに15か国を訪れた。 教室には由喜さんの作品がずらり。「幾何学模様のまりが一番の自信作」と話す。 慣れた手付きで集中して縫っていく。仕事部屋はしんと静まり返っていた。 祖母が始めた上野御殿まり教室の主宰を引き継ぎ、随時体験教室を開いている。わずか30分で小さな御殿まりが完成できるようにするなど、気軽に体験してもらえる工夫をしている。 御殿まり製作体験受付中 申込み:体験希望日の前日まで上野御殿まり教室?22‐8140へ