特集 ほとりあに行ってみよう! 高館山の東麓、下池のほとりにある鶴岡市自然学習交流館「ほとりあ」。下池に隣接する都沢湿地の環境保全などを目的に建てられた同館は、4月で開館10周年を迎えます。ほとりあには、開館当初の予想をはるかに上回る人が訪れており、昨年11月末には来館者が累計25万人を突破しました。  この特集では、幅広い年代の人々を楽しませながら湿地の保全活動を展開するほとりあを、館長や、ボランティアとしてイベント運営などに携わるサポーター、地元の小学生とそのお母さんへのインタビューを交えて紹介します。 ◇問合せ 本所環境課☎35‐1247 都沢湿地再生のキャラクター「どろっぱ」 「高館山、大山上池・下池やその周辺一帯を自然学習のフィールドとして、子供たちをはじめ市民みんなが自然との一体感を享受できるように、自然と触れ合う機会を創出する」。  鶴岡市では、これを基本理念とする「庄内自然博物園構想」を掲げ、25年近くにわたって、大山地区の自然を活用した地域づくりを進めてきました。  鶴岡市自然学習交流館「ほとりあ」は、この構想の重点整備区域となっている都沢湿地にたたずんでいます。  都沢湿地周辺の自然環境を守る拠点、そして、訪れる人々が自然と触れ合い、学べる拠点として、2012年4月に開館しました。 貴重な自然環境「都沢湿地」  ほとりあがある都沢湿地は、ラムサール条約登録湿地である下池に隣接する約7・7ha(東京ドーム約1・6個分)の広さを持つ湿地です。  元々は水田でしたが、減反政策の影響などもあって、1999年に全域が休耕田に。その後、下池からにじみ出た水によって湿った環境が保たれ、自然の低湿地が成立しました。  低湿地とは、低地の浸水域のことで、かつては日本のどこにでもあった、多様な生き物を育む重要な場所です。  しかし、近年は都市開発や水害を防ぐための河川整備などの影響で、自然の湿地はほとんど見られなくなってきています。  都沢湿地は、現代では貴重な、自然に出来上がった低湿地なのです。 活動の大切な3つの視点   「都沢湿地の環境をいかにして保全していくか」。ほとりあは、その使命を背負って開館しました。  湿地は放っておくと、自然の遷移によって乾燥化していきます。遷移の進んだ湿地は、本来、洪水などの自然の力で元に戻りますが、水害が起きないような対策が採られている現代では、人が手を加えていかなければ、湿地の環境を維持することができません。  また、外来動植物が増加することも、湿地の維持・再生への妨げになっていることが分かってきました。  開館以来、ほとりあでは、乾燥化が進み、外来動植物が増えている都沢湿地の保全管理活動「まもる」を軸に、教育普及活動「まなぶ」、里山利活用活動「つかう」の3本の柱で、様々な事業を展開してきました。 人の手で湿地を「まもる」  都沢湿地が出来た頃の環境を再生するため、ほとりあでは、重機や人の手を使って、湿地の土をかき混ぜ(かく乱)、土の中で眠っている種子(埋土種子)を目覚めさせようという取り組みを進めています。  この方法によって、湿地が成立した当時に生えていた、絶滅危惧種のミズアオイやミクリ、ジュンサイが出現しました。湿地のかく乱は、セイダカアワダチソウなどの非湿性の外来植物の定着防止にもつながっています。  また、都沢湿地に生えるヨシやマコモなどの大型湿性植物の刈り取りや、外来生物駆除などの活動を行いながら、ホタルやトンボなどが好む開けた水辺環境を作り出すことにも取り組んでいます。 【写真キャプション】上、右から左の順 ・下池のほとりに広がる都沢湿地。多様な水生動植物が生息する環境の保全が進められている ・重機による湿地のかく乱 ・マコモの刈り取り ・外来生物捕獲大作戦 ほとりあ館長 富樫 均 さん 2017年から同館館長。前職は大山小校長。教員時代からほとりあに関わり、子供たちの自然体験学習を進めてきた。専門は地質学。 里地里山の環境に触れて、人と自然との関わりを感じてほしい。  開館から10年、これまでほとりあに関わってくれた方々、訪れてくれた方々など、いろんな人の働き掛けもあって、都沢湿地をはじめ、ほとりあ周辺の自然環境や、活動に対する理解が進んできたように感じています。  ここの自然の特徴は里地里山です。自然があって、それと身近なところに人々の営みがある。人が関わりながら築いてきた自然とはどんなものなのか、それを感じたり考えたりできるようにするのが、ほとりあの役目だと思うんです。  ほとりあの周りの自然は、春夏秋冬いろんな顔を見せてくれて、それぞれに違った魅力があります。まずはそれに触れてもらうことが一番だと思っています。頭ではなく、心で自然を感じてもらいたい。きっと感動するはずです。  するとその先に「守っていきたい」「もっと知りたい」などの気持ちが生まれ、ほとりあが取り組む活動に、更に興味を持ってもらえるのではないでしょうか。  季節の移ろいを感じに、ぜひほとりあに遊びに来てください。 体験を通して湿地を「まなぶ」 ほとりあでは、市内の保育園や幼稚園の自然体験活動や、小学校の総合的な学習の時間での自然環境学習などへの支援も行っています。  水生生物観察会やどろんこ遊びなど、湿地に触れる体験を通して、特に、外来生物が日本にやってきた背景や、現在の都沢湿地が抱える課題を学び、湿地の環境を考えてもらえるような教育活動を展開してきました。  また、里地里山学講座や季節に合わせた自然観察会、散策会などを開催しながら、幅広い年代の方が、都沢湿地周辺の多様な自然環境に触れ、四季を通じて楽しめるような取り組みを進めています。 【写真キャプション】上、右から左の順 ・高館山 ・上池 ・下池 ・都沢湿地周辺には、森林浴の森100選の高館山、2008年にラムサール条約(=特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)湿地に登録された大山上池・下池など、美しい景観と多様な自然環境がある 都沢湿地に復活する生き物たち ・コガムシ ・ヒメゲンゴロウ ・ヘイケボタル ほとりあサポーター ホタルワーキンググループ 渡部 志津 さん 齋藤 由賀里 さん ホタルWG代表の渡部さん(右)、副代表の齋藤さん(左)は幼なじみ。都沢湿地を中心に、ホタルの生息調査などを行う。 ほとりあサポーターを募集しています! ▶活動を支援してくださる「アクティブ会員」 ▶広報、資金支援をしてくださる「賛助会員」 人と自然、人と人とをつなげてくれるのがほとりあです。  ホタルWGは、2012年の6月から活動を始めました。私たち同級生の間で「昔は大山にもたくさんホタルがいたよね」という話になったのが活動の始まりでした。最近は都沢湿地を中心に、ホタルが出始める6月の下旬から8月のお盆くらいまで、ホタルの個体数の調査をしたり、子供たちと一緒にホタルの観察会をしたりしています。  活動には、ほとりあのスタッフの皆さんがうまく関わってくれて、調査のアドバイスや仲間作りへの声掛けなど潤滑油になってくれています。ほとりあは、自然との関わりを学びながら、世代を越えて人と人とをつなげてくれる場でもあるんです。  ほとりあでは、スタッフの皆さんからいろんな知識を学ぶことができますし、大人も子供も楽しめる環境が整っています。子供たちが多くの自然と触れ合い、そして、大人も童心に帰れる空間、それがほとりあです。  今度のお休みの日は、家族みんなで遊びに来てみてはいかがでしょうか。 佐藤 蒼也 くん(大山小4年)          洋美 さん(お母さん) ほとりあの近くに住み、イベントに親子で参加している。蒼也くんが今年度に取り組んだ自由研究のタイトルは『大好きなほとりあ』。 生き物がたくさんいるほとりあが大好きです! 蒼也:お母さんと散歩をしているときにほとりあに入ったのがきっかけで、楽しそうなイベントがあったら参加したり、生き物の自由研究をしたりするようになりました。 洋美:3年生のときにやった自由研究『ぼくはカナヘビのお父さん』は、ほとりあの学習発表会でも発表しました。 蒼也:捕まえたカナヘビのことを、ほとりあでいろいろ教えてもらいながら育てて、卵の大きさを調べたり、産まれる瞬間を撮影したり、とっても楽しかったです。イベ ントにはたくさん 参加したけど、マコモを使うイベントやザリガニ釣りが特に面白かったです。 洋美:ほとりあに行くようになった頃、 蒼也はあまり生き物に触れませんでした。でも、何度も通っているうちに興味が出てきて、最近はウシガエルにも触れるようになったんです。 蒼也:ほとりあの周りには生き物がたくさんいて楽しいです。これからもっと在来生物が増えたらうれしいです。 湿地を「つかい」ながら守る  近年、ほとりあが特に力を入れているのが里山利活用事業です。  2014年に始まった外来生物活用プロジェクトでは、「食べて環境保全」 を合言葉に、大正時代に食用として持ち込まれたウシガエルと、その餌であるアメリカザリガニを市内の協力店舗で料理として提供する取り組みを推進。2020年には、長期保存と加工が可能なザリガニの粉末「ざりっ粉」を製作し、昨年はそれを使ったポンせんべいの販売を始めたり、ざりっ粉ラーメンを食べる会を開催したりしました。  マコモ活用事業では、都沢湿地から刈り取ったマコモを使って様々なワークショップを開催。リースを編んだり、粉末のお茶や、納豆を作ったりしながら、湿地の環境保全と同時に、活用することにも積極的に取り組んでいます。 ほとりあに行ってみよう! 「大山下池の〝ほとり〟に、自然を(あ)愛する人が(あ)集まる場所となってほしい」。〝ほとりあ〟の名前にはそんな願いが込められています。  ほとりあが取り組む「まもる」「まなぶ」「つかう」活動。それに触れることで、かつて人は自然とどう共に生きてきたのかを考えるきっかけになるかもしれません。  山、池、湿地、そしてそこに棲む多様な動植物。ほとりあは人と自然とを結び付けてくれる楽しい施設です。  深い雪が溶け、春が訪れる4月、ほとりあに出掛けてみませんか? スタッフ一同、来館お待ちしています!  鶴岡市自然学習交流館「ほとりあ」 住  所/鶴岡市馬町字駒繋3‐1 開館時間/午前9時~午後4時30分 休 館 日/火曜日、12月29日~1月3日 ※火曜日が祝日の場合は翌日が休館。 ※トイレは休館日も利用可。 入 館 料/無料 電話番号/☎33‐8693 ホームページはこちら ▶▶▶ 4月~5月上旬のほとりあの催しは本紙23ページをご覧ください。 都沢湿地の保全と再生を目指して 環境保全応援寄附金を受け付けています▶ こんなことに活用させていただきます! ▶外来動植物の駆除や水路の修繕 ▶食やクラフトの活用事業   等 【写真キャプション】中段、右下の順 ・アメリカザリガニを乾燥させて作った粉末「ざりっ粉」 ・ざりっ粉ポンせんべい ・マコモで編んだリース