特集 鶴岡みらい健康調査 スタートから10年、描く未来は 問合せ 本所政策企画課?35‐1184 生き生きと健康に暮らすことは、市民みんなの願いです。「病気になりにくい生活をする」「もし病気になっても、早く見つけて治す」という予防医学≠フ観点から、慶應義塾大学と鶴岡地区医師会、鶴岡市を中心に、地域の保健・医療機関が連携し、市民の皆さんの協力の下で「鶴岡みらい健康調査」を進めてきました。調査開始から10年。現時点での成果と今後の展望をまとめました。 「鶴岡みらい健康調査」とは  慶應義塾大学と鶴岡地区医師会、鶴岡市が中心となり、2012年に始まった、25年計画の長期的なコホート調査(※)です。  この調査では、メタボローム解析技術(※)を用いて、参加者の血液や尿の解析結果と、健康診断やアンケートの情報を追跡調査することで、生活習慣病の早期発見や予防につなげます。   これまでの研究結果は、2021年3月時点で30以上の医学論文、70以上の学会発表で公表されており、医学的にも注目されています。 コホート調査(研究)とは? ある共通点を持つ集団を、長期的・継続的に調査する手法のこと。体質や生活習慣などが、どのように病気の発生と関連するか、明らかにすることができます メタボローム解析技術とは? メタボローム=体の細胞内の化学反応などで作られる「代謝物」。これを網羅的に測定できる最先端の技術です。この技術で血液や尿を分析することで、代謝物の動きから生活習慣病などの兆候をいち早く捉え、予防に有効な検査指標(マーカー)の発見に役立てます 武林 亨 氏 慶應義塾大学医学部教授。 鶴岡みらい健康調査プロジェクトリーダー  鶴岡市には、2001年に慶應先端研が、2007年に住民に開かれた健康づくりの学びの場、からだ館が開設されています。  鶴岡みらい健康調査は、将来的に地域の健康に役立てることを目指し、慶應先端研の「メタボローム解析技術」、からだ館の「住民参加」、そして「予防医学」の3つを合わせて始まりました。この10年で、ようやく研究の足腰が整ったと感じています。  今では常識となっている健康知識「塩分は控えめに」「適度な運動を」なども、コホート研究の成果です。  この調査は、成果が出るまでに長い時間が掛かります。参加者の皆さんの健康に役立つのは、少し先になるかもしれません。  それでもなお、鶴岡のみらいのため、子供や孫のためにと参加いただいている皆さんに、本当に感謝しています。 長期計画と「認知症予防調査」 鶴岡みらい健康調査は、開始25年後(2037年)までを研究期間とした長期的な取り組みです。 時代の要望や必要性に伴い、2019年に「認知症予防調査」が追加されました。 調査のしくみ  調査に協力いただいた参加者から、健康診断で採取した血液と尿を提供してもらい、メタボローム解析を行います。また、参加者の生活習慣などのアンケート調査を行います。これらの結果から、生活習慣や健康状態の変化を詳しく分析します。  これまでに参加した約1万1、000人のデータを総合的に解析し、生活習慣と体内の物質との関係を明らかにしていきます。 調査参加者 → 生活習慣などのアンケ―ト調査 → 集計 鶴岡みらい健康調査プロジェクトチームが詳細分析 調査参加者 → 健康診断で血液・尿の預かり → メタボローム解析  鶴岡みらい健康調査プロジェクトチームが詳細分析 認知症予防調査の目的は  2019年に、認知症の新しい予防方法の開発などを目的として、認知症予防調査を追加。これまでの3年間で、850人以上の方を対象にベースライン調査(基準値を把握するための初回調査)を実施しました。  今後、2024年から追跡調査が継続される予定です。 飯田 美穂 氏 慶應義塾大学医学部専任講師。 認知症予防調査責任者  認知症予防調査を始める際に告知したところ、初回説明会に400人近い申込みがあり、認知症に対する皆さんの関心の高さを感じました。  まだ調査は始まったばかりですが、2012年からの調査の結果と合わせると、認知機能には「耳や目の健康状態」や「生活の中での孤立」が関連していることが分かってきました。  将来的には、認知症になりにくい対策を皆さんに提案できるよう、研究を進めていきます。 鶴岡みらい健康調査の最新情報はホームページへ 鶴岡みらい健康調査 長期計画 「コホート調査」と「地域の健康づくり」の2つの取り組みを実施しています ●コホート調査による新しい予防指標の開発 鶴岡市民、世界の人々の病気の早期発見と予防を目指して 2012年〜2015年 ベースライン調査 約1万1,000人が調査に参加! 2015年〜2037年 フォローアップ(追跡)調査 認知症の予防と対策 「より早期に、正確に、個別に」を目指して 2019年〜2022年 認知症予防調査ベースライン 2022年〜2037年 フォローアップ(追跡)調査 ●地域の健康づくり    からだ館を中心に、健康で活力ある場づくりを提供 2012年〜2037年 住民主体の健康づくりを実践 からだ館の取り組み 市民の健康増進を進めるためには、一人ひとりが健康について意識し、行動することが欠かせません。 調査に先立ちオープンし、今年で15年目を迎える「からだ館」の取り組みについて聞きました。 秋山 美紀 氏 慶應義塾大学環境情報学部教授。 慶應先端研「からだ館」プロジェクトリーダー 齋藤 彩 氏 「からだ館」スタッフ。 社会福祉士。情報発信や、健康に関するイベントの実施・周知を担当 秋山 「からだ館」は、2007年に鶴岡タウンキャンパス内の図書館にオープンしました。当初はがんの方やそのご家族が情報を得られ、交流できる場という役割が主でしたが、活動を続けるにつれ、市民の皆さんの様々な要望に応え、内容を充実させてきました。  人の健康は、生物学的な要素だけでなく、他者との関係性や地域コミュニティにも大きく左右されます。また、健康に暮らすためには、皆さん一人ひとりが健康になる行動を、自ら起こしていくことが大切です。 齋藤 「からだ館」は現在、がんに限らず、様々な健康情報を得られる場、分かち合う場として活動しています。心の健康のためのセルフケアなど、参加者が主体的に企画する勉強会もあります。  地域の健康づくりのため、鶴岡みらい健康調査と両輪でお役に立てればと思っています。 調査で分かってきていること 鶴岡みらい健康調査では、この10年間の調査研究で明らかになってきたことがあります。研究成果の一部を紹介します。 代謝物の変化で生活習慣病を予測  現在、飲酒や食生活、運動などの生活習慣によって、体内の代謝物が変化することが分かってきています。今後の調査により、生活習慣病が発症しやすくなる代謝物の変化を特定できれば、生活習慣を変えることで、病気を未然に防ぐことが可能になります。 女性特有の病気を予防するには  妊娠合併症の一つである妊娠高血圧症候群(旧:妊娠中毒症を含む)を経験した方は、将来的に高血圧になりやすいことが分かりました。  また、閉経前後に見られる代謝物の変化が、脂質異常症や骨粗しょう症のリスク上昇に関わっている可能性が示されました。  今後、女性特有の病気に対する効果的な予防につなげていきます。 閉経前 → 閉経 ●女性ホルモンが減少 ●代謝物が変化 → 閉経後 メタボリック症候群・動脈硬化・骨粗しょう症などリスク増 閉経を境に変化する代謝物の種類が明らかに。これらの知見を踏まえ、より病気になりにくい予防方法を提案していきます。 ほかにも、こんな成果が得られています 健康状態の評価に役立つ指標が明らかに 肝臓の障害や脂質異常症に関わるメタボロームを特定し、病気の進展のメカニズムの解明につなげていきます。 「メタボローム解析」手法の信頼性アップ 今後の新たな健康評価に活用できる多くの代謝物を、安定・正確に測定できるようになりました。 原田 成 氏 慶應義塾大学医学部専任講師。 コホート調査責任者 これまでの調査で、参加者の体質について調べ終わったところです。今後の研究では、生活習慣だけでなく、体質も評価軸に加えることができるようになります。 みらい健康調査が描く未来 基礎的な研究は、成果が得られるまでに長い時間を必要とします。近い未来、市民みんなが健康でいられるよう、調査研究の成果を生活に還元するための取り組みが進められています。 “予防医学”の考え方  医学・医療という言葉に「病気を治す」という印象を受ける方は多いのではないでしょうか。病気になってから治すのではなく、「生き生きと、病気になりにくい生活をする」「もし病気になっても、早く見つけて治す」という観点の医学を予防医学≠ニ言います。  例えば、ある物質が病気の発症に関係すると特定できたとします。その物質の働きを体内で抑えられるような?べ?、生活習慣などの情報とひも付けることで、病気にかかりにくい体づくりが可能になっていくのです。  この予防医学≠実践するためにも、メタボローム解析技術が有効であると考えられています。 調査結果の世界的な利用  鶴岡みらい健康調査は、研究で収集した情報を、個?が特定できないようにした上で、東北大学などの6研究機関と相互利用する共同研究の枠組み「日本ゲノムコホート連携」に参加しています。また、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカの47のコホート研究で構成された「メタボロミクス研究コンソーシアム(COMETS)」にも加わっており、世界規模の人種・地域的な比較にも本調査結果が用いられています。 将来的なデータの活用  本調査の成果は、国内外で参照され、人が健康に暮らすための重要な基礎資料として活用されます。鶴岡市に暮らす人にとっては、自分の生活スタイルに近いデータであり、得られた成果はより説得力を持つと思われます。  子や孫の世代が、より健康に暮らすことができる社会の実現に、この成果が役に立てるよう、これからも調査を進めていきます。 こんな活用も?みらいの健康調査 予防医学を反映した、様々な健康管理。 下記のような機能が実現する社会も、 そう遠くはないかもしれません。 機械学習・AIによるアドバイス 自身の健康情報や生活習慣、遺伝的情報を含めて、AI(人工知能)によって個人に合わせたアドバイスが可能に。 「健康スコア」による自己診断 生活習慣や体質など、不健康リスクを加点式(スコア)で表現。定期的な健康診断の結果から、病気のリスクを自己診断できるように。 自身の健康情報に自分でアクセス アンケートや健診の結果から、自身の健康状態や対策が判断できるように。自分の健康を自分で管理できる社会へ。 市健康課での取り組み 鶴岡みらい健康調査の結果を受け、市民の健康に役立つ情報を、ホームページで発信しています ★スマートイート事業  野菜をたっぷり食べられる減塩メニューを公開中です。健康増進のために重要な、食べ方のポイントも解説! ★実践!健康ワンポイント  室内でも気軽にできる運動を、動画で紹介しています。今よりも、1日10分多く(プラステン)体を動かしましょう!