人の情景 scene 04 瀬尾利加子 Rikako Seo 人と人をつないで、 医療と地域をつなげる 異業種の人たちをつなぐことで、高齢化社会が抱える課題の解決に取り組むカタリストの瀬尾利加子さん。化学用語の「触媒」を意味する″カタリスト≠ヘ、人をつないでより良い方向に化学反応を起こす、きっかけ作りが役割です。  「住み慣れた地域で暮らし続けられるよう支援する『地域包括ケア』は、地域全体で取り組む仕組みが必要です。以前は医療と介護の連携を主に進めてきていましたが、やはりそれだけでは解決できないんです。より多くの分野で連携することが大切で、そのため異業種同士が″知り合う場≠作ることを中心とした会社を立ち上げました」。  カタリストとしての活動は、「実験をずっと続けている感覚」と話す瀬尾さん。  「医療機関は具合が悪くなってから行く所で、それまでは多くの人が医療や介護、病気のことを調べようとしないと思うんです。でも、いざとなったら短い時間で決断しないといけない。だから健康なうちに医療等に関する情報に興味を持つ人を増やす必要があります。ただ、いきなり専門職の人に話を聞くのはやはり壁があると思うので、少しでも壁をなくすために私が間に入り、両者がつながりやすい環境を整えたいんです。」と自らの役割について語ります。  並行して、食べ物を飲み込む力が弱くなる「嚥下障害」のある人に楽しく食事をしてもらいたいという思いの下、2018年に「鶴岡食材を使った嚥下食を考える会」を発足。″嚥下食≠ニは、食事にとろみを付けたり、ペースト状にしたりして、飲み込みやすい形にしたものです。  「そういう方にも外食という楽しみがあったらという、一緒に活動する管理栄養士の一言がきっかけでした。当時は嚥下食を提供している飲食店がなかったので、料理人にも声を掛け活動を広げていきました。」  医療従事者と料理人をつなげることから始めた活動ですが、「鶴岡で食べられる所が増えれば、市内の方の楽しみが増えるのはもちろん、全国から、嚥下食を必要とする方に観光で来てもらえることにつながると思うんですよね。」と話しながら、「鶴岡の新しい食文化になれば」と、更に先のことも考えています。  異なる分野がつながることで、それが更にほかの分野にも波及することを目指す瀬尾さんは「医療に限らず、もっと市民が話し合える場を作れたら」と、まだまだ実験の手を緩めることはありません。  現在は刺繍が趣味と言う瀬尾さん。糸と布をつなげるように、様々な業種の人たちをつなげることで、地域包括ケアの実現に取り組んでいます。 写真 ▲コワーキングという手法を使い、異なる分野の人たちがお互いを知り合える場を作り出している。 ▲鶴岡食材を使った嚥下食を考える会には、医療・介護関係者や料理人等様々な業種の人が集まる。 ▲市が主催する「鶴岡市地域医療を考える市民委員会」では委員長を務める。 ▲「本気で人生会議」。この日は庄内保健所長を講師に、今後の医療の在り方について勉強会を開催。 瀬尾利加子 さん(54) 鶴岡市出身。2002年に庄内医療生活協同組合に入職。庄内地域医療連携の会事務局長や東北7県医療連携実務者協議会代表世話人、南庄内緩和ケア推進協議会地域連携ワーキンググループリーダーなどを歴任。2017年に起業し、カタリストとして活動を始める。2019年から鶴岡市地域医療を考える市民委員会委員長。