魅力ある地域づくりは 自分たちが楽しむことから 人(ひと)の情景(じょうけい) scene 09 伊藤治 Osamu Ito 越沢自治会の会長を務める伊藤治さん。集落内外の方と協力し合いながら、越沢集落の地域づくりに取り組んでいます。 「今年の4月から自治会長を務めていますが、本当は、先頭に立って指揮を執るのは一番苦手なんです。でも、経験豊富な先輩たちが相談役になって、いつでも支えてくれるので感謝しています」。  越沢集落が地域づくりに取り組み始めたのは、少子高齢化や転出者が増えたことで人口減少が目立ち始め、近くの小学校や保育園の閉校・閉園などで地域の存続に危機感を抱いた住民たちの声がきっかけでした。そこで、平成28年に自治会有志と地域おこし協力隊等で『越沢自治会活性化委員会』を組織。 「その委員会が中心となって、集落の中学生以上の全住民にアンケートを実施し、それを基に、翌年『越沢活性化ビジョン』を作成したんです。28年に越沢三角そばが在来作物に認定されたことも重なり、そばを核とした、住民総参加の地域づくりに取り組み始めました」。  そばのブランド化に向けて、収穫したそばの全量を固定価格で買い取る仕組みを構築し、商標登録も取得。生産農家が増え生産面積も広がり、意欲ある集落内外の方と共同で栽培に取り組む体制づくりを進めています。また、山形大学の学生のフィールドワークをきっかけに、若者との交流も盛んに行われるようになり、徐々に越沢集落のファンが増えてきました。ほかにも、高齢者世帯を支援する「雪下ろし協力隊」を結成し、高齢者の冬期間の不安解消と隊員の副収入確保に努めるなど、様々な取り組みを行っています。  これまでの取り組みが評価され、今年の豊かなむらづくり全国表彰事業の「むらづくり部門」で、越沢自治会が内閣総理大臣賞を受賞。「まさか?という驚きと同時に、住民全員で喜びをかみ締めました。」と伊藤さんは話します。  地域づくりで心掛けていることを尋ねると「多様な考えを受け入れること。住民の声を大事にして話し合うこと。小さなことからまずやってみること。そして、やりたいことをみんなで一緒に楽しくやっていくことですね。」と話す伊藤さん。その上で今後の展望についても語ります。 「集落内外の越沢ファンをもっと増やし、世代を超えた交流を進めていきたい。そして、豊かな自然を最大限に生かし、いつまでもここで一生暮らしていきたいと思えるような心地良い集落にしていきたいですね」。  柔和な表情の内にある熱い思いで、これからも楽しく越沢集落の活性化に挑戦し続けます。 ▲ あつみ観光協会摩耶山支部で制作したTシャツ。主にイベント時に着用している。 ▲ 10月28日・29日にまやのやかたで行われた新そばまつり。山形大学の学生や地元の中学生・高校生もスタッフとしてまつりを盛り上げました。 ▲「雪下ろし協力隊」の活動風景。豪雪地帯の越沢集落では、積雪が3メートル近くになるため、雪下ろしが欠かせない。 ▲ 新そばまつりで行われた抽せん会。当せん者が出ると、「ばんざーい」の掛け声とともにスタッフも一緒になって喜びを分かち合いました。 伊藤治(いとう・おさむ)さん(62) 酒田市出身。結婚を機に越沢集落に移住して35年。約10年間の自治会役員を経て、令和5年4月から越沢自治会の会長として地域づくりに取り組む。趣味は温泉巡りや山登り、食べ歩きなど。越沢センターに夢を肴に酒を飲む≠ニ書かれた標語があり、「地域の方や越沢に訪れた方と夢を語りながら飲むビールは格別。」と語る。