食べる人への感謝の気持ちが おいしい料理を生み出す 人(ひと)の情景(じょうけい) scene 10 佐藤渚 Nagisa Sato 和食料理人の佐藤渚さん。昨年開催された、鶴岡食文化創造都市推進協議会主催の「次世代ガストロノミーコンペティション」で、見事グランプリを受賞しました。 「父が料理人で、幼い頃から『かっこいいな、自分もなりたいな』と憧れていました。それで、進路を決める段階の中学2年生のときに、私も料理人になろうと決めたんです」。  調理師専門学校を卒業後、潟Gル・サンに入社。結婚披露宴や宴会の料理、テイクアウトのお弁当など多岐にわたって料理を作っています。 「初めは、ただ作るだけな感じがして、あまり面白みがなかった。」と言う渚さん。そんなとき、料理人人生を変えてくれた上司?と出会います。それが、グランドエル・サンで料理長も務めた佐藤亘(さとうわたる)さんでした。 「『料理を作った人の気持ちもお客様に届くから、そういうことも大事にしないとおいしい料理は作れないよ』。2年間一緒に働いた中で、亘さんからは料理人としても人としても大切なことを教わりました。それからは料理を作ることが楽しくなりましたし、やっていて良かったと思えるようになったんです」。  その亘さんが今年度定年を迎えるため、自分の成長した姿を見せて恩返ししたい。そう思っていたときに知ったのが、次世代ガストロノミーコンペティションでした。 「参加を決めたとき、鶴岡の大会なので、鶴岡の歴史や風景を感じられる料理で勝負しようと思いました」。  料理の着想を得るために、休日は松ヶ岡開墾場周辺を散策。そこで感じたことを料理に落とし込んでいきます。時には日付が変わるまで試行錯誤していたこともありました。 「庄内藩士等が開墾した過去、現在も変わらない庄内の風景、未来につながるシルク。料理を通して、鶴岡のすごさを伝えたかったんです」。 鶴岡らしさ?などが評価され、渚さんはグランプリを受賞。そのとき感じたのは、うれしさよりも感謝の思いだったと語ります。 「亘さんには『俺が教えてきたことは間違っていなかった』と感じてもらえたでしょうし、指南役としてチームを組んだ佐藤八重(さとうやえ)さんや、同僚、家族など、支えてくれた全ての人への感謝を、グランプリ受賞という形で表せたのではないでしょうか」。  受賞してもなお、「今のままで満足してはいけない。」と話す渚さん。 「今後は、鶴岡の料理を世界にも広めていきたいです。そのために、まずは亘さんに教わったようにお客様に感謝して料理を作る。そうして力を付けながら、いずれは父とお店を持ってみたいですね」。  食べる人の笑顔を思い浮かべながら、渚さんは今日も心を込めて料理を作ります。 渚さんのグランプリ受賞作品! いもごぼたもち切り株見立て 〜庄内藩士開墾の歴史と庄内の景色を残して〜 卵黄の醤(しょう)油漬けで夕日を表現 揚げたゴボウと大根で、くわを表現 つや姫の穂の素揚げで庄内平野を表現 濃い緑色の皿で田んぼを表現 シルク入りの餅を薄く伸ばして絹織物を表現 シルクを混ぜた卵白を泡立ててお湯に入れ、繭玉を表現 松ケ岡地区に伝わる「いもごぼた餅」の具材を豚肉で巻き、開墾後に残った切り株を表現 佐藤渚(さとう・なぎさ)さん(26) 鶴岡市大山地区出身。庄内総合高校、酒田調理師専門学校を卒業後、潟Gル・サンに入社。料理人歴は6年目で、専門は和食。「料理の幅を広げたい」と、ふぐ調理師の免許も取得。第1回身欠きふぐ調理技術大会では会長賞を受賞。仕事をする上でのモットーは自分ができることは手を抜かない=B休日は、家で過ごすことが多い。趣味は、料理本集めと占いサイトを見ること。 ▲亘さんには、受賞後すぐに報告。頻繁に連絡を取り合い、「亘さんは何でも相談できる頼れる人」と語る。 ▲指南役の八重さんからは、「愛情を込めて作れば、おいしくなるんだよ」と教わった。