広報つるおか2023.11月号
更新日:2023年10月24日
市長の一筆入魂(69)
毎朝、仏壇に手を合わせる。物心付く頃からの習慣となっている。妻子を連れて故郷にUターンしてからは、併せて神棚も拝むようになった。先日、長女が友人を連れて我が家に宿泊した際に、仏壇の上に神棚がある、この地域の伝統的な形式について説明した。我が家の裏は三森山、通称モリ山になっている。お盆に送られた霊は里にほど近い森に集まり、やがては月山や鳥海山といった更に高い山へ行く、と考えられてきた。
10月7日、黒川能の里王祇会館において、開館20周年を記念した事業が行われた。元櫛引庁舎支所長の佐藤浩氏による記念講話では、「王祇会館設立当時の思い出」が語られ、なるほど、この施設の整備に当たって農林水産省の補助事業・中山間地域総合整備事業が活用されたことや、平成15年に開催された国民文化祭・やまがた2003の民俗芸能「能の祭典」の実施に間に合うように開設されたことがよく分かった。売れっ子アナウンサーだった元NHKの鈴木健二氏による講演や、岩手県平泉町の毛越寺に伝わる能「留鳥」が上演されたことなども貴重な映像とともに紹介され、興味深かった。櫛引ケーブルテレビジョンによる当時の映像が残されており、アーカイブ(情報やデータを整理し、保存・保管すること)の重要性にも改めて気付かされた。
黒川能と観世流との仕舞の共演では、その違いはどこにあるのか、観世流能楽師の清水義也氏による解説、講演で、一般の人にも分かりやすく教えていただいた。神事能である黒川能は、神様と対話する農民の芸能であるのに対し、観世流は、江戸幕府公認の芸能である式楽、つまり武士の芸能である点に大きな違いがある。技そのものではなく、神様と向き合いながら舞う心を継承していることが、今改めて世界からも人々を引き付けているのだと感じた。
黒川能の里「黒川」が、能の関係者に広く知られているように、考えてみると鶴岡市には出羽三山の門前町である「手向」や、サムライゆかりのシルクの「松ケ岡」、北前船寄港地の「加茂」、しな織の里「関川」、だだちゃ豆の本場「白山」などなど、きらりと光る歴史・文化と結び付いた場所がなんと多いことか。そこに共通するものは何か。商業主義に陥らず、本物を継承している地域、ということではないだろうか。
「ほんとうの豊かさ」、それは、やはり物質的な豊かさだけでないのだろう。各地域における自治とともに、心が継承されてきたことへの誇り。創造と伝統の街を、市民の皆様お一人お一人の参画の下に大きくしていきたい、そう願いながら今日も手を合わせる。
10月11日、原稿締切りギリギリのタイミングで、温海地域の越沢自治会が第62回農林水産祭におけるむらづくり部門で内閣総理大臣賞受賞のニュースが飛び込んできた。在来作物である越沢三角そばを活かした活動、本物の味とむらが私たちの街にはある。
皆川 治
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