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広報つるおか2025.1月号

更新日:2024年12月25日

市長の一筆入魂(83)

 長時間タラを砂糖と塩で漬け込むことで、魚の身がしっかりとした食感に変化するのだという。

 2015 年にユネスコ食文化創造都市に認定されたノルウェーのベルゲン。27時間かけてその街から鶴岡にやって来たレイモンドシェフの一皿は、庄内地方の年越し魚である塩鱈をほうふつさせた。 北欧の薫りのするその料理は、グリーンピースと黄色のソースが鮮やかで、確かにタラの食感が際立っていた。ベルゲンで最も本格的な料理で、多くの家庭でクリスマスの時期に食べられる、祝祭の料理なのだという。まだ見ぬ異国の風景と食文化がそこにはあった。

 海外8都市を含む10都市のシェフが競演した「風土×FOOD(ふうど)Night」が開催された12月8日。
 午前中に横綱柏戸記念館を訪れた。今年度の高山樗牛賞に輝いた池田はじめさんの脚本による朗読劇「柏戸少年紀」を鑑賞するためである。その日は柏戸の命日。柏戸、富樫剛少年はどんな少年だったのか。合間に入るサックスの生演奏が作品の世界にマッチし、迫真の朗読に、笑いあり、時にほろりと、時間を忘れさせた。

 山添村桂荒俣出身、後に横綱となる柏戸が初土俵を踏んだのは、昭和29年。70年前、山添村と黒川村が合併し、櫛引村が誕生した年だった。昭和44年に引退、49年生まれの私には、現役時代よりも鏡山親方時代の「あぐど出た」が記憶に残る。「あぐど」、庄内弁で言うところの踵(かかと)。審判部長を務めていた親方になった柏戸が、「土俵からかかとが出た」と解説したつもりが、もちろん庄内弁では通じない。

 令和7年は、平成の大合併から20周年の節目を迎える。食文化創造都市認定10周年のふうどマルシェに並んだのは、庄農うどん、斎館のごま豆腐、松ヶ岡の紅茶、旬のフルーツ、笹巻、三角そば、温泉地の食、更には食べ物を盛り付ける器などなど、20年前に合併した6市町村が織りなす個性と食の豊かさだった。

 少年時代の柏戸が、魚の行商のアバが困っているのを助け、そのお礼にエゲシをもらう。「櫛引バトンプロジェクト」の一環として、次世代に語り継ぐ試みは、農村と漁村が交わる、古き良き時代の故郷の姿を今に伝えてくれた。

 農林水産省を辞めて故郷に帰った2014年、鶴岡市は食文化創造都市となった。あれからもう10年たったのか。「ふうどフェスタ」の帰り際、食生活改善推進員の皆様に、ラップにくるんだ雷おこしを頂いた。海外のシェフの一皿もすばらしかったが、懐かしい素朴な甘さが、私を少年時代に引き戻してくれた。

皆川 治

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